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『ガレージの夜』クロム舎

 緊張した。
 何せ、芝居初体験の友人が隣に座っている。果たして彼は、クロム舎の芝居を見てどんな反応をするだろうか・・・。幕が上がる・・・。

 
 土曜の夜、クロム舎の『ガレージの夜』を見てきた。
 クロム舎は、僕の好きな劇団の一つである。小劇場界において、最も本気を感じさせる集団だと僕は思っている。そして、その本気を形にする手段を恐らく彼らは知っていて、それを実行するだけの精神力がある。風に向かって胸を張り、足を前へと踏み出す姿は美しいものである。
 芝居の作り方も潔い。基本1シュチュエーション。がっちり作りこんだ装置。正統派ストレートプレイ。無骨な男劇団って感じで良い。なんだこりゃ?ベタ褒めだなぁ、おい。
 小劇場界において、笑わせてナンボという風潮がなんとなく感じていて・・・それは僕がまだまだ芝居を知らんと言うのもあるかもしれないが、僕の見た範囲内で考えると・・・僕はもう笑いはもう良いなぁと思う。要素として笑いは大事だが、『笑った=面白い』ではなかろうと。そろそろもっと基本に立ち返ったほうが良い気がしてならない。
 随分前だけれど、野田マップを立ち上げた頃だったか、野田秀樹が“ぴあ”のインタビューの中で語っていた。現在は良質の劇団が少ない。第三舞台や、夢の遊眠社などの模倣劇団だらけになってしまっている、と。オリジナル性の問題。
 あれから時間はかなり経っているけれど、そのシガラミからなかなか抜け出せない空気を感じる。何か風穴を開けるような劇団は出てこないものかと待ち望んでいる。それは僕だけじゃなく芝居を見ている人は皆そう思っているところがあるんじゃないかなぁ。
 閑話休題。今回のクロム舎は田舎のスナックが舞台。同窓会を装って同級生を誘拐し完全犯罪を企む男達の物語。しかし、紆余曲折の果て物語はどんどん思わぬ方向へ・・・。
 物語は、やや難解。大体の筋は見えるが、細かい身代金受け渡しが先方とあらかじめ話がついている辺り、ラストの逮捕に至る経過などの流れが分かりづらかった。
 が、構成は僕の好み。いちいち説明的なセリフはあまり無い。いや、あるけれど、スナックでのやり取りを盗み見ている感じ。特に“客の為に”わざわざ説明的なシーンは無い。最初は分からなかった、スナック店員の落ち着きの無さや、誘拐された社長の息子の不可解な行動など見ているうちに段々分かってくる。ポラロイド写真のように全体像が徐々に見えてくる。この構成の仕方があるからこそ観客を2時間の長丁場引っ張っていける。
 ただ、この構成が若干ぼやけていた気がする。理由は、叫び調のセリフが多い事。大事なきっかけのセリフの前にはワンクッション置いてはいるのだが、その仕掛けがやや上手く機能して無い箇所がチョコチョコあり、物語で押さえておきたい所が流れてしまった。その結果、ストーリーがやや難解である感を受けた。役者が、もう一歩、半歩、引いたところで芝居ができれば良かったのでは。
 半歩引いたところ芝居を、と言う点では役者の芝居で、取っ組み合いが多数繰り広げられるのだが、装置にガンガンぶつかるので、装置がグラグラゆれてるのを見てかなりハラハラした。
 なので、演技の観点からするとちょっと雑な感じがした。もしかしたら、その雑さが物語に熱を与えているのかもしれないけれど。
 しかし、今回の芝居はすごく良かった。
 ラストのキリコが、オオモリに聞く。
「私の名前、覚えてる?」
オオモリは静かに微笑み、おもむろに答える。
「・・・キリコ。」
キリコはそれを聞き、解けるように微笑む。
「良かった・・・」
あのシーンがこの芝居のすべてだと思う。もし。あれが無かったら僕はこの芝居をあまり評価しなかったかもしれない。あのシーンによってこの物語は昇華する。


 友人は、芝居の最中微動だにしなかった。
 初めて芝居を見たとき僕はどんなだったろうか?僕の初体験は確か加藤健一事務所の『カッコウの巣の上を』だった。その初体験は幸運であった。あれが第三舞台で無くて良かったと僕は今でも思っている。初体験が第三舞台だったら、僕の芝居観も随分変わっていたはずだ。
 だからこそ、初めて見る芝居は純粋なストレートプレイが良いと思い、今回誘ったのだ。
 果たして、見終わって彼に感想を聞くと、
「面白かった。ヘタな映画見に行くよりコッチのほうが良い」
と、かなり満足していたようだ。そして、
「あの女の子がイイ。好み。」
と、芝居とあんまり関係ない感想も述べていた事をここにさらけ出してしまおう。


 クロム舎・・・ROCKだよなぁ・・・。ちくしょう・・・チラシもCOOLなんで悔しい。
by skullscafe | 2005-11-06 23:32 | 芝居


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